「いつも本と一緒に」ナカムラユキさん作 全文

「いつも本と一緒に」   作:ナカムラユキ

ぽかぽかとあたたかな陽射しが心地いい午後のことです。
子犬のプチくんはお散歩中、背中にふわふわとした風を感じました。
「あれ? なんだろう? 今日はとびきり気持ちいいなあ」
鼻先をくんくんと動かしながら見上げると、青い羽のようなものがふわり、ふわり。
よく見ると鳥のように羽ばたく本がこっちにやってきます。
プチくんは思わず鼻先をぐんとのばして、ぱくり!
ぱたぱたと動く本を優しくくわえました。
くわえたとたんに本はぴたりと動きを止め、羽はふっと消えてしまったのです。
「なんてふしぎな本なんだ。それにしてもいったいどんなお話が書いてあるんだろう? 
そうだ、物知りのパピエくんなら何かわかるかもしれないな」





プチくんは、お散歩仲間で仲良しのパピエくんにこの本を渡すことにしました。
にこにこ顔のパピエくんが、いつもの待ち合わせ場所、大きなむくの樹の木陰にやってきました。
「やあやあ、プチくん。今日もごきげんかい?」
プチくんは、すかさずパピエくんに本を渡しました。
そして鳥のように本が羽ばたいてやってきたこと、
でも羽は消えてしまったことを夢中で話しました。

「それで……この本ぼくがもらっていいの? 君が見つけた大事な本じゃないのかい?」

「いいんだよ。君に読んでもらいたいんだ。どんなお話か聞かせてほしいんだ」

本が大好きなパピエくんは大喜びで、そのふしぎな本を胸にぎゅうっと
大事にかかえて家に帰っていきました。
さて、パピエくんはその日から、くる日もくる日もかたときもその本をはなさず、
夢中で読みました。

「なんておもしろい本なんだ! しかも、ふしぎだなあ」
え? どんなふしぎな本かって?
たとえば、こうです。
一度目に読んだ時は、頭の奧も目の奧もずんずん、ちくちくと痛くて、
胸の深い深いところもきゅうっとして、息もうまく吸えなくて。
「あれ? ぼくどうしちゃったんだろう?」
と思っていると、目と鼻からまるで川のように水が流れだしました。
もう身体中の水分がなくなってしまうんじゃないかと思うぐらい次から次へ、とまることなく。

気がつくとパピエくんは、わんわん、うおんうおんとありったけの声を
お腹の底のほうから出して、泣きました。
そして、眠ってしまいました。
翌朝、パピエくんは、まぶたが半分になってしまったんじゃないかと思うぐらい
はれた目とぼんやりした頭で、本の1ページ目を開いてみました。
すると、一行目も、二行目も昨日読んだお話とはちがうのです。

「あれ?! おかしいなあ。昨日とは全然ちがうお話になってる!」
二度目に読んでいる最中はこうでした。

目の奧がオレンジ色のやわらかなおひさまに照らされているようにじわっとあたたかく、
胸の奧がふわふわの羽毛のオブラートに包まれているようにやさしくて、
頭のてっぺんはミントの香りがするようにすがすがしく、
思わずすーはー、すーはーとふかーく息をしたくなります。

「あれ? ぼくどうしちゃったんだろう?」

本を持って、部屋から外へ出て、いつものお散歩へ行こうとすると
足の裏がくすぐったいような気がします。

そして、まるで小さい羽が左右に二つくっついているかのように、
空中を蹴っているように軽いのです。

「やあやあ、プチくん。今日はごきげんかい?」

「あー、あー、あれ? ぼくの声?」自分の声も変わっていることに気がつきました。

音符がついているような歌声に聴こえます。
歩きながら、パピエくんは夢中で本を読みすすめていきます。
プチくんは待ち合わせのむくの樹の木陰で、ぐうぐうとのんきにお昼寝です。

パピエ君にどんなことがあったかも知らずに、すっかり夢の中。

モンシロチョウが自慢の鼻先にとまっていることにだって気がつかないぐらいですから。

「ねえねえ、プチくん! 起きて! この本ほんとうにふしぎなんだよ」

「最後まで読んでから、また最初のページを見返すと違う物語に変わっているんだよ!」

息つくひまもなく、パピエくんはプチくんに昨日と今日、自分に起こった出来事を話しました。

目と鼻が川のようになってしまったこと。

胸がきゅうっとして息がはあはあ……となったこと。

でも今日は足に羽がはえているみたいに軽いってこと。
プチくんは驚いて、目をまんまるにして聞いていました。

そんなにふしぎな本だったなんて思いもしなかったのです。

もっと驚いたことに、パピエくんの目の奧が、二人のお気に入りのミカエシ池のはすの葉っぱに
たまった朝露のように澄んでいて、きらきらと光っているのでした。
パピエくんとプチくんは話しているうちに、友達のしおりちゃんにも読ませたくなり、
貸してあげました。
「どんなお話だった?」と聞くと
一度目は頭のてっぺんから湯気が吹き出してしまうのではないかと思うほど、
胸の奧はかっかかっかとして、
手や足がぶるぶるとして頭はぐわんぐわんと大きな石の音が鳴り響いて
目の奧が熱くなって、犬の遠吠えのようにわおんわおんと言いながら眠ってしまった、
と言います。

そして三日目にようやくまた読む気になって本を開くと、ふしぎなことに違う物語になっていて、
しおりちゃんはパピエくんと同じように
「羽がはえたみたいでね、からだがふわふわっとしてね、頭の上からミントの香りがするのよ」
と言うのです。


パピエくんとプチくんとしおりちゃんは目をまんまるにして顔を見合わせました。
そして、町のみんなにもこのふしぎな本を読ませたくなりました。
その本はゆっくりゆっくり人の手から手へ渡っていきました。
おとうさんもおかあさんも赤ちゃんも近所のハナギレおばあちゃんも
ヒョウイチにいさんもトビラノねえさんもみんな、みんながふしぎな本に夢中です。

いつも誰かの家にその本はあっていつもいつも誰かのそばにありました。
パピエくんやプチくんやしおりちゃんがみんなに物語の中身を聞くと、
みんなそれぞれにお話は違っていて、
一度目に読んだあとのからだの調子や気分もパピエくんたちとは違いました。
たとえば、
一ヶ月後に、「わはは、がはは、おほほ、うぉほっほほほほ」
っと笑いがとまらなくなってしまったコグチじいちゃん。
三ヶ月後に、おしゃべりがとまらなくなってしまったトビラノねえさん。
ほらね、みんな、みんな違うんです。

あらら、ふしぎです。

そして、さらにふしぎなことに『足に羽がはえてミントの香りがする』という出来事がおこるのは、
翌朝、三日後、一ヶ月後、三ヶ月、半年。一年、三年…という人もいました。
みんな、みんな違うんです。

あらら、ふしぎです。

いつものようにお散歩をしているパピエくんとプチくんのところに、
雲の隙間から光の糸にのって青い鳥が飛んできました。
「ぴぴぴぴぴ、ぴーとぅるるるるる」とつややかな声をあげて

生まれたばかりのつやつやの緑のクローバーを飛ばせながら。
たくさんのクローバーは、ふわりふわりと地面に舞い降りると町を
緑色のふかふかの絨毯に変えていったのです。
プチくんはその時、ぴん! ときたのです。

「あの本についていた羽は、君の羽だったんだね」
「みんなにはね、見えないのかもしれないけど、あの本を読んだ人の頭のてっぺんには、
ミントの葉っぱが大好きな青い鳥がとまっているんだよ」
「いつもいつも、どんなときも本と一緒にね」
そう伝えて、青い鳥はまた空にふわりふわりと消えていきました。

天から飛んできた一冊の本がもたらしたふしぎなふしぎな本のおはなしでした。

(おしまい)
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by honokuri-tai | 2011-09-14 00:00 | 活動報告

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